PMP試験の勉強で覚えた用語をかみ砕いて理解するための記事
1. エンタープライズ・スクラムの概要と背景
エンタープライズ・スクラムとは、大規模な組織全体にアジャイルのスクラムフレームワークを適用する手法のこと。複数のチームや部署が協力し合い、共通の目標に向けて一貫したアジャイルなアプローチでプロジェクトを進める。
PMPの文脈では、エンタープライズ・スクラムはアジャイルプロジェクト管理の中でも特に、組織全体でアジャイルな文化を定着させる方法として重要視されている。具体的には、アジャイル環境の確立や、迅速なフィードバックを得るプロセスで頻繁に使われる。これは主に「アジャイルプロジェクトマネジメント」や「チーム管理」に関連するプロセスで活用される。
実務では、エンタープライズ・スクラムを適用することで、異なるチーム間での情報共有を促進し、効率的に製品のリリースを進めることができる。たとえば、製品開発において複数の部署が関与している状況で、それぞれの部署がスクラムチームとして機能し、共通の目標を持つことで連携の質が向上する。
2. エンタープライズ・スクラムとは?
エンタープライズ・スクラムとLESSの違い
エンタープライズ・スクラムとLeSS(Large-Scale Scrum)は、どちらも大規模なアジャイル導入のためのフレームワークだが、いくつかの違いがある。
- スケーリングのアプローチ: エンタープライズ・スクラムは、大規模な組織全体にスクラムを適用するために、複数のチームや部署の連携を重視する。具体的には、全体のプロジェクトゴールを共有しながら、それぞれのチームが自分たちのプロダクトバックログを管理し、各チームの成果を統合することで、組織全体としての一貫性と効率性を確保する。一方、LeSSはできるだけ少ないプロセスでスケーリングを行うことを目指している。たとえば、LeSSでは、チーム間の調整をシンプルに保つために共通のプロダクトバックログを使い、不要なプロセスを省くことで各チームの自律性を最大限に引き出す。また、管理層を減らすことでチーム間の直接的なコミュニケーションを促進し、意思決定を迅速に行える環境を構築する。このように、LeSSはシンプルなフレームワークを維持しながら、大規模プロジェクトにも適用できるようにすることを目的としている。
- ガバナンスと管理: エンタープライズ・スクラムでは、各チームが個別に作業を進めながらも、統合されたバックログ管理や定期的な大規模スクラム会議(スクラム・オブ・スクラムなど)を通じて、チーム間の整合性と協力を維持することを目指す。たとえば、各チームは自分たちのプロダクトバックログを持ちながら、全体のゴールと進行状況を共有するためにスクラム・オブ・スクラムを定期的に開催し、情報共有と調整を行う。このような会議では、依存関係やリスクについて議論し、チーム間のギャップを埋めることで、一貫した戦略的な進行を保証する。一方、LeSSでは階層的な管理をできる限り減らし、チームの自律性を重視するアプローチを採用する。たとえば、LeSSでは各チームが直接他のチームとコミュニケーションを取り、管理者を介さずに必要な情報交換を行うことで、意思決定のスピードを高める。この結果、各チームが迅速に意思決定を行い、柔軟に対応できる環境を構築することができる。LeSSは中央集権的な管理を避け、チーム間の自然な協力と情報共有を促進することで、組織全体の俊敏性を向上させる。具体的には、LeSSではチーム間の会議や統合的なバックログを最小限に抑え、必要な時に直接的なやり取りを重視することで、組織のスピードと柔軟性を確保する。
- 適用範囲と文化: エンタープライズ・スクラムは、組織全体の文化としてアジャイルを定着させることに重点を置いており、トップダウンでのアジャイル文化の導入を強く推進する。一方、LeSSは、スクラムの基本原則である「小さく反復し、進化する」というアプローチを保ちながら、大規模プロジェクトにも適用できるように拡張することにフォーカスしている。たとえば、LeSSでは、できる限り少ないプロセスを用い、シンプルな役割やアーティファクトを維持しつつも、複数のチームが協力して一つのプロダクトを開発する。そのため、組織がスケールしても、各チームが独立して効率的に動けるような環境を整えることが目標となる。結果として、LeSSは大規模な組織においても、余計な管理やプロセスの複雑化を避け、スクラムのシンプルさを維持することで一貫したアプローチを取る。
エンタープライズ・スクラムは、従来のスクラムをさらに大規模な環境に適用する手法であり、複数のチームが同時にプロダクトを開発・改善することができる。
具体的には、全体の戦略に基づいて異なるスクラムチームがそれぞれのプロダクトバックログを持ち、それを組織全体で連携させて進行する。このプロセスには、大規模なスクラム会議(例えばスクラム・オブ・スクラム)や統合されたバックログ管理などの方法が含まれる。これにより、各チームは独立して作業しながらも全体として整合性を保つことができる。
エンタープライズ・スクラムは、アジャイル文化の定着、組織の柔軟性の向上、ビジネス価値の迅速な提供を可能にし、特に大規模プロジェクトでの課題解決に役立つ。PMBOKでは「プロジェクト資源管理」や「コミュニケーションマネジメント」などの知識エリアでエンタープライズ・スクラムの活用が考えられる。
3. 実務での適用例
たとえば、IT企業で複数の異なるサービスを同時に開発しているプロジェクトを考える。チームAはユーザーインターフェース、チームBはバックエンドAPI、チームCはセキュリティ対策を担当している。
エンタープライズ・スクラムを導入することで、各チームは自分たちの担当する部分に集中しつつ、スクラム・オブ・スクラムのミーティングを通じて、全体の進捗やインターフェースの整合性を確認できる。結果として、プロジェクト全体のスピードが上がり、無駄なやり取りや誤解を減らすことができる。
成功例としては、チーム間の透明性が向上し、リリース計画の変更にも迅速に対応できた結果、プロダクトのリリースが予定よりも早く行えたケースがある。※(筆者の体験ではなく、例です。)
4. アンチパターン – エンタープライズ・スクラムを使わなかった場合の問題点
エンタープライズ・スクラムを導入しなかった場合、典型的な失敗例として、各チームが独立して作業する結果、全体としての統合性が失われることが挙げられる。
たとえば、チームAが開発したインターフェースと、チームBが開発したバックエンドAPIの仕様が合わず、結局リリース直前で大幅な修正が必要になり、プロジェクトの納期が2か月遅れたという失敗があった。これにより、顧客の信頼を損なう結果にもつながった。
また、統合的なフィードバックループが欠如するため、品質にばらつきが生じ、後工程での修正コストが増大することも考えられる。特に、全体のゴールが共有されていないため、各チームが部分最適化に走り、最終的なプロダクトの品質が低下するリスクがある。※(筆者の体験ではなく、例です。)
5. 学びと今後の展望
エンタープライズ・スクラムの重要性は、チーム間の連携を高め、組織全体でのアジャイル導入を促進する点にある。また、他のアジャイルフレームワークやツール(例えばカンバン)との組み合わせによって、さらに柔軟で適応性の高いプロジェクト運営が可能になる。
次に学ぶと良いのは、エンタープライズ・スクラムを成功させるためのリーダーシップのあり方や、スケーリングフレームワーク(SAFeなど)の活用方法だ。
6. まとめ
エンタープライズ・スクラムは、組織全体でアジャイルを実現するためのフレームワークであり、大規模なプロジェクトでの連携と効率化に寄与する。適切に導入することで、チーム間の整合性と迅速なリリースを実現し、顧客への価値提供を最大化することができる。
7. PMP試験で出そうな問題例と解答
問題例: エンタープライズ・スクラムの特徴として適切なのはどれか。
- 全てのチームが同じバックログを共有する
- 各チームが独自のプロダクトバックログを持ちつつ、全体の戦略に基づいて連携する
- 全体のミーティングを持たない
- 個々のチームのみで開発を完結する
解答: 2
エンタープライズ・スクラムでは、各チームが独立して作業しながらも、全体の戦略に基づいて連携する点が重要である。