PMP試験の勉強で覚えた用語をかみ砕いて理解するための記事
1. 導入 – 用語の概要と背景
ローリング・ウェーブ計画法は、計画を“一気に固めず”に段階的に詳細化するアプローチだ。直近の作業は具体的に、遠い将来の作業はざっくりと──このメリハリで不確実性を吸収する。
PMPではスケジュール・マネジメント知識エリアの計画プロセス群に位置づけられ、特に**「アクティビティ定義」「スケジュール作成」**で多用される。PMBOKのフレーズで言えば “段階的詳細化(Progressive Elaboration)” を実務に落とし込んだ具体的手法というわけだ。
アジャイル開発のスプリント計画を思い浮かべると理解しやすい。すぐ着手するバックログは細かく切り出し、半年先のEpicは大まかなサイズ感だけで放置。進捗に合わせて徐々に解像度を上げる──それがローリング・ウェーブだ。
2. 詳しい説明 – 手順と仕組み
2‑1. サイクル全体像(適用タイミングと概要)
フェーズ | 具体的に何をする? | 実施タイミング | ねらい |
---|---|---|---|
① マイルストン設定 | ゴール日・主要成果物・外部依存をざっくり配置し、全体の航路図を共有 | キックオフ直後、または大きなフェーズ移行時 | チームとステークホルダーが「どこへ向かうか」を同じ地図で確認する |
② 直近フェーズのWBS詳細化 | 次の2〜4週間で着手する作業だけを1〜3日単位のタスクに分解し、見積りを精緻化 | 各イテレーション開始前 | すぐ手を動かせるレベルに落とし込み、計画精度を担保 |
③ 実行 & レビュー | 詳細化したタスクを実装→検証→レビュー/レトロスペクティブで学びを抽出 | イテレーション期間中 | 実成果物を通じて仮説を検証し、改善点を顕在化 |
④ 次フェーズ詳細化 | レビュー結果や追加要件を反映し、まだ粗かった次のフェーズを同じ深さまで展開 | イテレーションの終盤〜次回計画開始前 | 最新情報を反映した“今いちばんリアルな計画”を作成 |
⑤ 繰り返し | ①〜④をウェーブ状に先へ転がし続ける | プロジェクト完了まで | 変化を吸収しながら計画精度と成果物品質を同時に高める |
要点: 計画は毎イテレーションで“最新化”し、詳細化の深さは「直近」に限定する。これにより要件変更の影響範囲が最小化され、再計画コストも抑えられる。
2‑2. なぜ役立つ? なぜ役立つ?
- 変化に強い: 先のタスクを固めないので要件変更が怖くない。
- 工数の無駄を削減: 先々の設計書を書き直す悪夢から解放される。
- ステークホルダーと足並みを揃えやすい: 毎サイクルで成果物と次計画を提示できるため、理解・合意を小刻みに得られる。
2‑3. PMBOKとの関係
知識エリア | プロセス | 関連度 |
スコープ・マネジメント | WBS作成 | ★★★ |
スケジュール・マネジメント | アクティビティ定義 / 順序設定 / 所要資源見積り | ★★★ |
リスク・マネジメント | リスク特定 / 監視 | ★★ |
3. 実務での適用例
※(筆者の体験ではなく、例です。)
3‑1. プロジェクト概要
- 案件: SaaSプラットフォームの新料金プラン機能開発
- 期間: 3か月
- チーム: PM1、エンジニア4、UXデザイナ1、QA1
3‑2. 運用イメージ
週 | 計画粒度 | 具体的な動き |
1 | 高 | 料金テーブルAPI詳細設計、モック実装、単体テストケース作成 |
2 | 高 | BFF層実装、エンドツーエンドテスト、レビュー会開催 |
3 | 中 | 管理画面UI構成決定、主要画面ワイヤーフレーム作成 |
4 | 高 | UI実装着手、フィードバック反映 |
5‑6 | 中→高 | クーポン連携仕様を粗く→詳細化し実装 |
7‑8 | 低 | 決済連携は“外部API連携”の粒度で保留。レビュー結果を見て詳細化予定 |
結果、途中で料金ルールのビジネス要件が変わったものの、影響範囲が最新フェーズだけに限定され、リリース遅延ゼロで完了。顧客からは「変化に即応できるチーム」と高評価を得た。
4. アンチパターン – 導入しなかった場合の失敗
※(筆者の体験ではなく、例です。)
ウォーターフォール設計思想のまま、初回キックオフで全機能を詳細設計したケースを想像してほしい。半年後、外部APIの仕様変更が発生——しかし既存設計は前提がズレており、下記のような連鎖が起きる。
- フロントエンドとバックエンドのインターフェースを全面修正。
- テストケース200件を破棄 → 再作成。
- 納期が3か月遅延、追加コスト▲15%。
- メンバーは仕様変更対応に追われ、バグ率上昇。
ローリング・ウェーブを使っていれば、詳細化は直近フェーズのみ。修正範囲は小さく、コストも納期も最小限で済んだはずだ。
5. 学びと今後の展望
- **計画は“生モノ”**というマインドセットを持つ。
- ローリング・ウェーブをリスクレビューやインクリメンタルデリバリと組み合わせ、変更検知→計画更新→デリバリを高速ループさせる。
- 次の学習候補: バックログリファインメントのベストプラクティス、リリースプランニング、ベロシティ計測。
6. まとめ
ローリング・ウェーブ計画法は、不確実性が高い現代プロジェクトにおける“盾”かつ“剣”。変化を恐れず進みながら計画を磨くことで、ムダを削ぎ、価値提供を加速させる。
7. PMP試験で出そうな問題例と解答
- ローリング・ウェーブ計画法が最も活用されるプロセスグループは?
→ Planning(計画) - 主な利点を二つ選べ。
→ 不確実性への柔軟性/後工程再計画コスト削減 - WBS作成時に遠い将来の作業を大まかに定義し、着手前に詳細化する手法は?
→ ローリング・ウェーブ計画法
試験対策ヒント: キーワードは「段階的詳細化」「Planning」「WBS」。選択肢に“Progressive Elaboration”があれば要注意。