マルチモーダルとは
画像だけでは見落とす異常も、音声や振動など異なる種類のデータ(モーダル)を組み合わせることで検知できる場合があります。この複数のモーダルを統合して学習する手法が マルチモーダル学習 です。
PyTorchでは、
- 画像処理に torchvision
- 音声処理に torchaudio が利用できます。
画像+音声の特徴結合例
# 画像特徴抽出
z_img = vit(images) # (B,768)
# 音声特徴抽出(メルスペクトログラムの平均)
z_wav = mel(wave).mean(-1) # (B,80)
# 特徴ベクトルを結合
z = torch.cat([z_img, z_wav], dim=-1) # (B,848)
この結合ベクトルをもとに、マハラノビス距離で異常スコアを計算する方法がよく使われます。単なるユークリッド距離では捉えにくい、「どの方向にずれているか」を評価できるため、複雑な異常検知に有効です。
たとえ話
画像だけで判断するのは、無音の防犯カメラで泥棒を探すようなものです。そこに音声情報が加われば、足音や物音といった“気配”にも気づけるようになります。
マルチモーダル学習は、このように複数の感覚をAIに与えることで、より人間に近い判断力を実現します。
Transformerとの相性と実務上の注意点
TransformerはSelf-Attentionを使って、画像パッチや音声フレーム、温度センサー値など異なるモーダルの情報を統合できます。ただし実務では、前処理が命とも言えるほど重要です。例えば:
- 各モーダルのスケール合わせ(正規化)
- サンプリング周期の統一(時間軸の揃え)
- 欠損値や異常値の補正・除去
- センサーごとのノイズ処理
- 重要度の異なる特徴を適切に重み付け
これらを怠ると、どれだけ優れたモデルでも性能が大きく低下します。視覚・聴覚・温度といった多様な情報を活かすためには、データの質を担保する前処理が基盤となります。
まとめ
- マルチモーダル学習は、1つの視点では見落とす異常を補える
- PyTorchでは
torchvision
とtorchaudio
を組み合わせて容易に実装可能 - 実務では前処理の品質がモデル精度に直結する
- マハラノビス距離など、高度な異常スコアリング手法と相性が良い
- Transformerを活用すれば、異なる感覚情報を一つの判断基盤に統合できる
複数の感覚を持つAIは、製造業の品質管理や予知保全、防犯、医療診断など、さまざまな分野での応用が期待されています。