ラベルなし画像でもモデル精度を高める最短ステップ
目的:少ないアノテーションコストで高性能な画像認識モデルを実現する。
想定読者:転移学習は知っているが、ラベル不足に悩むエンジニア/研究者。
0. 転移学習とは?
転移学習(Transfer Learning) は、大規模データで学習済みモデルの“知識”を土台に、最終層だけを自分の小規模データで微調整する手法です。ラベル不足でも高精度が得られ、学習も数分〜数時間で完了するため、多くの実務プロジェクトで採用されています。
1. 自己教師あり学習とは?
従来の教師あり学習は「画像+正解ラベル」が必須でしたが、Self‑Supervised Learning(SSL)は データ自身から“疑似ラベル”を生成して学習します。代表的な方式は以下の 2 系:
系統 | 代表手法 | 概要 | 学習課題 (Pretext Task) | 特徴ポイント |
---|---|---|---|---|
コントラスト学習 | SimCLR | 同一画像を2回ランダム変換し、ペアの類似度を最大化 | 変換ペアを近づけ、異画像を遠ざける | 実装がシンプル、GPUバッチ依存大 |
MoCo v2 | 大きな“待ち行列”に画像特徴を貯め、過去データもまとめて比較できる仕組み | 大キュー内で InfoNCE 損失 | 小バッチでも安定学習、軽量GPU向き | |
BYOL | 同じ画像ペアを使い、2 つのネットワークが交互にお手本役となって学び合う | 自己予測タスク | 負例不要、収束が速い | |
マスク再構成 | MAE | 画像パッチの 75% をマスク → デコーダで復元 | マスク領域の再構成 | ViT 専用・高速前学習 |
BEiT v2 | 文章モデル BERT と似た手法で、隠した画像ピースを当てるゲーム | マスクトークン予測 | 自然言語と統合しやすい |
補足:文章モデル BERT
BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)はテキストの一部(単語)をマスクし、モデルに当てさせることで文脈を理解させる事前学習法です。BEiT はこの”単語マスク”の発想を画像パッチに応用しています。
〈補足:コントラスト学習とマスク再構成の違い〉
- コントラスト学習は「似ているものを近づけ、違うものを離す」練習を通じて特徴を学びます。 例えば同じ猫写真を2枚の変換画像にし、それらのベクトル距離を縮めつつ、犬写真とは遠ざけるイメージです。
- マスク再構成は「隠された部分を復元するパズル」で学びます。 画像の大半をマスクし、モデルに“見えないピース”を当てさせることで、全体構造を理解させる手法です。
コントラスト学習は 大量バッチや負例管理が鍵、マスク再構成は マスク率とデコーダ設計が精度を左右します。
2. SimCLR を例にした PyTorch 実装(抜粋)
import torchvision.transforms as T
from torchvision import models
augs = T.Compose([
T.RandomResizedCrop(224),
T.RandomHorizontalFlip(),
T.ColorJitter(0.4,0.4,0.4,0.1),
T.RandomGrayscale(0.2),
T.ToTensor()
])
img1, img2 = augs(img), augs(img) # 正例ペア
encoder = models.resnet50(weights=None)
proj_head = torch.nn.Sequential(
torch.nn.Linear(2048, 512),
torch.nn.ReLU(),
torch.nn.Linear(512, 128)
)
z1 = proj_head(encoder(img1.unsqueeze(0)))
z2 = proj_head(encoder(img2.unsqueeze(0)))
loss = NTXentLoss()(z1, z2) # コントラスト損失
💡 ポイント:事前学習を終えたら最後の
proj_head
を外し、encoder
を特徴抽出器として転移学習に利用。
3. いつ使うべき?判断ガイド
チェック項目 | YES なら SSL を検討 |
未ラベル画像がラベル付きの 10 倍以上 ある | ✅ |
ラベル作成コストが 1 枚 数百円以上 | ✅ |
近いドメインの ImageNet 事前学習で精度が頭打ち | ✅ |
4. 成功させるコツ
- 変換(aug)が命:モバイル写真なら色変換、医療画像なら回転のみ等、ドメインに合わせる。
- バッチサイズ:SimCLR は 256↑ が望ましい → VRAM 16 GB 以上の場合は
Gradient Accumulation
を設定。 - 学習率スケジューラ:CosineAnnealing + Warmup が定番。
5. 実務応用のベストパターン
- SSL で事前学習(数時間〜数日)
- ラベル付き少数データで Fine‑Tuning(エポック少なめ)
- エッジ展開の場合は Distillation or LoRA で軽量化
6. もう一歩踏み込むテクニック
テーマ | やること | 効果 | 参考手法 |
モーメンタムエンコーダ | 学習用エンコーダとは別に“ゆっくり更新”される影響エンコーダを持つ | 表示崩れ・学習不安定を防ぎ特徴が滑らかに | MoCo, BYOL, EMA‑Teacher |
Queue Length 調整 | MoCo の待ち行列を 65k → 256k へ拡張 | 負例多様化で収束加速 & 精度 +1〜2% | MoCo v3 論文 |
多段マスク率 | MAE でマスク率 40→60→75% に段階増加 | 広域構造→細部の順に学習し安定化 | CAMO, UniMAE |
クロスモーダル事前学習 | 画像+テキストを同時入力 | キャプション付きデータで意味情報を統合 | CLIP, ALIGN |
Self‑Distillation | SSL後に自分自身を Teacher に再学習 | ノイズ低減&推論速化 | DINO, iBOT |
7. 上級者向け挑戦領域
レベル | テーマ | 取り組み内容 | ゴール/メリット |
A:最適化の限界突破 | Contrastive Momentum Schedulers | モーメンタム係数・温度・キュー長を自動探索(BayesOpt 等) | 手動チューニング無しで +1〜2% mAP |
B:マルチビュー×マルチモーダル | マルチビュー×マルチモーダル (UniVIS) | 画像・テキスト・3D 点群を同一エンコーダで事前学習 | AR/自律走行で 1 モデル多用途化 |
C:自己教師+増強学習 (RL) | 自己教師+強化学習 (ReSim) | SSL で特徴、RL で政策学習 → サンプル効率↑ | ロボット・ゲーム AI のデータ量削減 |
D:ニューラル証明/可逆暗号化 | 可逆表現×プライバシー | Invertible ResNet+SSL で復元可能暗号 | 医療・金融で匿名化&再同定を両立 |
E:大規模分散自己教師 | 大規模分散SSL | RegNet‑1024G + FSDP で数億画像を学習 | 自社 Foundation Model を保有 |
まとめ
自己教師あり学習は「データはあるがラベルが高い」問題を解決する武器です。コントラスト学習→マスク再構成の順で導入し、少ラベル転移学習と組み合わせれば、驚くほど低コストで高精度モデルを構築できます。