近年、画像認識タスクにおいて従来のCNN(畳み込みニューラルネットワーク)に代わり注目されているのが Vision Transformer(ViT) です。自然言語処理で圧倒的な性能を示したTransformerの仕組みを画像にも応用することで、高精度な分類や検出が可能になります。今回はその基本構造と、PyTorchでの使い方を初心者にも分かりやすく解説します。
ViTの特徴とは?
Vision Transformerの最大の特徴は、「画像をパッチに分割し、言語のトークンのように扱う」点です。
画像を例えば16×16ピクセルの小ブロックに分割し、それぞれをベクトル化したものを時系列データのようにTransformerへ入力します。畳み込み層が不要な代わりに、位置情報を保持するための 位置エンコーディング(Positional Encoding) が必要です。
ViT のしくみ
- パッチ化:入力画像 (例 224×224) を 16×16 ピクセルの小ブロックに分割。
- 線形埋め込み:各パッチを 1 次元ベクトルに変換し、トークン化。
- 位置エンコーディング:空間情報を失わないよう、パッチの座標を数列で付与。
- Transformer Encoder:NLP 同様に自己注意機構で特徴を統合。
- CLS トークン:最終的な画像表現として取り出し、分類層に渡す。
PyTorchでのViT利用例(timmライブラリ)
pythonコピーする編集するimport timm
import torch
model = timm.create_model('vit_base_patch16_224', pretrained=True)
model.eval()
dummy = torch.randn(1, 3, 224, 224) # ダミー画像入力
with torch.no_grad():
output = model(dummy) # 出力 shape: [1, 1000]
vit_base_patch16_224
は、Vision Transformer ファミリーの “標準サイズ” にあたるモデルです。224×224 ピクセルの写真を 16×16 の小さなタイルに切り分け、それぞれを 768 次元の“文字列”に変換して Transformer に読ませます。例えるなら「写真をレゴブロック化して文章のように解析する」イメージ。すでに ImageNet‑1k(1000 種類の画像)でしっかり下地学習を済ませているため、数行のコードでも自分のデータへ転移学習しやすく、高精度が狙えるのが大きな魅力です。
ViTは何が嬉しいのか?
ポイント | 具体的メリット |
---|---|
モジュール化 | 畳み込み層が無く、自己注意ブロックの組み替えでスケール調整が容易。 |
大規模事前学習と相性◎ | テキスト・画像を同一アーキで学習でき、マルチモーダル活用がしやすい。 |
長距離依存の捉え方が自然 | 画像全体の文脈をグローバルに見られるため、細部と全体構造の同時理解が得意。 |
推論時の柔軟な入力サイズ | パッチ数が変わるだけなので、CNN より解像度変更の影響が少ない。 |
注意点
- 計算コスト:パッチ分割が細かいほどメモリを多く消費します。モバイル運用なら DeiT や MobileViT を検討。
- 大量データ前提:小規模データでの学習は CNN より難しいため、転移学習が基本。
利用シーン・活用例
シナリオ | ViT が向く理由 | 具体導入ポイント |
産業用外観検査 | 部品全体を俯瞰しつつ微小キズも検出できる長距離注意 | ViT‑Small+蒸留でリアルタイム化 |
衛星・ドローン画像解析 | 広域と局所が混在した高解像度画像でも情報を統合 | ViT‑Large+タイル推論でメモリ節約 |
医療画像(X線・CT) | CNNより病変の形状や位置バリエーションに強い | 事前学習済みViTをLoRAで微調整 |
マルチモーダル検索 | 画像とテキスト表現を同一空間に埋め込める | CLIP ViT 系を使いクロス検索 |
実運用事例(2024–2025)
企業・プロジェクト | 採用ViT | 業務内容・メリット |
Meta “Segment Anything” | ViT‑H/14 | 高精度な領域切り抜きを実現。写真編集ソフトや広告クリエイティブに組み込み済み。 |
Tesla FSD v12 | ViT‑based Occupancy Network | 360°カメラ画像を統合し、車線・障害物をリアルタイム予測。CNNより少パラメータで高精度。 |
Google Gemini Vision Encoder | ViT‑G/14 | 検索とマルチモーダル対話で画像理解を担当。YouTubeサムネ自動要約にも応用。 |
医療AI「Quibim IACD」 | DeiT‑Small | CT画像の臓器セグメンテーション。ViTで位置ズレに強く、検出漏れを15%削減。 |
まとめ
ViT は CNN と異なるアプローチで画像を処理し、マルチモーダルや大規模学習との親和性が高い点が魅力です。PyTorch + timm なら数行で試せるので、まずは事前学習済みモデルを動かし、ViT のポテンシャルを体験してみましょう。